轟千尋ピアノ曲集『碧に寄せる詩』ピアノセミナー(横浜・2024/07/19開催)
7月19日(金)ヤマハミュージック 横浜みなとみらい
文・山本美芽(音楽ライター/ピアノ教本研究家)
写真提供:ヤマハミュージック 横浜みなとみらい、全音楽譜出版社
作曲家、轟千尋先生のオリジナルの曲集「碧に寄せる詩」が発売され、それにあわせたピアノセミナーがヤマハミュージック 横浜みなとみらいにて行われました。6月6日にオープンし、空間を贅沢に使った楽器体験エリアが話題の新店舗。セミナー会場となったサロンにはピアノ指導者やピアニスト、そして轟先生のファンが詰めかけ、満席でした。
前作「星降る町の小さな風景」から8年、新作「碧に寄せる詩」は、23曲を収録。コロナ禍で空を眺めることが多くなり、そこから思い出や大切な人たちのことを考え、インスピレーションを得ながら作られたそうです。轟先生は、作曲しながら何を考えていたのか。この音? いやそれではなく、この音。完全5度の使い方や、転調へのこだわり、ダイナミクスの書き方など、試行錯誤の片鱗を実際に演奏しながら語る轟先生。真新しいセミナールームのヤマハS6が、冴え冴えと作品のハーモニーやリズムを描き出します。
楽譜と同時に発売されたCDはピアニスト三舩優子さんが演奏。レコーディングの際には、轟先生が想像もしなかった弾き方、解釈がいくつもあり、自分の曲をピアニストに弾いてもらう経験、そこで得た驚きと感動についても語ってくださいました。CD購入特典として「作曲家のひみつノート」と題する小冊子PDFがダウンロードでき、そこでも「和音の魔法」や「調性の秘密」など、作曲家の頭の中を楽譜にするときにどんなふうに考えているのか紹介されています。グループレッスンでの鑑賞教材としての使い方のアイデアなども提案があって、セミナー後に夏休みのグループレッスンでCDを使って実践してみた先生もいたそうです。
23曲の中には、ブルクミュラー程度で弾けそうな曲もたくさんあるいっぽうで、上級者向けの演奏効果の高い曲もあり、これには「1冊を長く愛用してほしい」という轟先生の思いが込められているのだとか。教会旋法、倍音を物理的に鳴らす試み、変拍子といった近現代の要素もあちこちに登場しますが、びっくりするというよりは「ハッとする」ぐらいの匙加減に轟先生らしさを感じました。新鮮な響きに胸が躍ったり、コロナ禍に空を見ていた時間を思い出したり。できたばかりの真新しい楽譜について轟先生のお話とピアノ演奏が間近に聴けて、とても贅沢な時間でした。今後、各地で「碧に寄せる詩」の発売記念セミナーが予定されているそうです。
プロフィール 轟千尋(作曲)
作曲家。東京藝術大学卒、同大学院修了。日本フィル、九州交響楽団、兵庫芸術文化センター管弦楽団、群馬交響楽団等のプロオーケストラ、広上淳一、徳永二男、三浦文彰、辻井伸行、仲道郁代、三舩優子、清塚信也、米良美一の各氏ほか、数々の演奏家に作品を演奏されている。2023年プロフィギュアスケーター浅田真央アイスショー「BEYOND」では千秋楽公演の楽曲アレンジ担当。出版物多数。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会評議員。
ピアノ曲集 『碧に寄せる詩』