根津 栄子先生セミナー(伊藤楽器船橋セミナー・2023/06/15開催)
6/15 根津栄子 / 生徒がぐんぐん育つ!バスティンシリーズ攻略セミナーPart.2 2023年【Vimeo視聴&ピティナ・ピアノセミナー対象講座】
ショパンのように美しいチェルニーを目指して
バスティンシリーズを長年研究し、たくさんの生徒さんを育ててこられた根津栄子先生のバスティンシリーズのセミナー、第4回は「チェルニー30番~30の小さな物語 上・下」でした。2013年に発売されて以来、ベストセラーとなっているこの楽譜をテキストに、バスティンからチェルニーに進んでどのようなレッスンを行うのか、お話がありました。
レッスンのウォーミングアップで栄子先生が行っているグーパー体操を受講者みんなで行います。指がほぐれたところで、まず前半は栄子先生のお嬢様で、ピアニストの根津理恵子先生が登場。ポーランドで長く勉強され、ショパンコンクールのファイナリストでもあり、チェルニー30番のCDも録音(https://www.to-on.com/bastien/news/30_czerny30)されている理恵子先生から、ショパンの曲にチェルニー30番がどのように発展するのか、演奏とレクチャーがありました。30番に出てくるトリルや半音階などが、そのままショパンのこの曲に出てくるという実例が、エチュードにワルツにポロネーズに沢山出てきます。ゆっくり弾く際に「ドルチェでカンタービレに、音色を重視する」というお話は、栄子先生の提唱する30番の解釈に通じるものがありました。
後半は、根津栄子先生の指導方法のお話です。栄子先生のレッスンでは、バスティンの導入教材パーティーからベーシックス1~4へと進み、ピアノ名曲集が終わると、いよいよチェルニー30番へと進みます。栄子先生は子どもの頃、自分もチェルニーが嫌いで、生徒たちもチェルニーが嫌いな子が少なくなく、どうしたらいいのか懸命に考え、そして生まれたのが上下巻に分かれた「チェルニー30番~30の小さな物語」でした。可愛らしいイラスト、大きく見やすい楽譜、素敵な曲のタイトル。そして曲の順番が並べ替えてあるのが実は一番の重要ポイントです。ソドレミレド…と始まる1番は、5指の独立が必要で、とても難しいので、下巻へ。かわりに6番から始まります。10曲からなる上巻を終えて下巻に入ると、指の独立や1の上下運動、左手のスケールと、遅いテンポならばまだなんとか弾けても、高速で弾くのは難しい曲が次々に出てきます。しかしそこは「345のとき1と2の間をまるく」などの栄子先生が考案した「7つのキーワード」を実践すると、必ず解決の糸口が見つかるのです。
途中、佐々木邦雄先生が30番の曲をプリモとして、そのまま弾き、セコンド部分を作曲された連弾伴奏集「原曲がそのまま弾ける ふたりのチェルニー30番」の演奏と紹介もありました。通して弾けるようになったら、こうして連弾を楽しむレッスンも良さそうです。
栄子先生と理恵子先生の長年の研究を贅沢に凝縮した今回のセミナーでは、ショパンを弾くのと変わることなく、ドルチェでカンタービレに、美しくチェルニーを弾く、そのスタンスが非常に明快に示されていました。第一線の演奏家のテクニックを基礎段階に消化、再構築した栄子先生のこのチェルニーの指導法が広がると、テクニックの水準は飛躍的に向上し、チェルニーを美しく弾ける学習者が今後どんどん増えて、チェルニーのイメージも刷新されていくことでしょう。
文・山本美芽(音楽ライター/ピアノ教本研究家)https://mimeyama.jimdo.com/