舘野 泉先生/久保 春代先生セミナー(表参道・2023/05/17開催)
2023年5月17日 カワイ表参道コンサートサロンパウゼにてスオミ・ピアノ・スクール〜監修者・クラシック界のレジェンド舘野泉氏を迎えて〜を開催いたしました。
まず最初に、講師の久保春代先生よりスオミ・ピアノ・スクールに関する全体のお話しがありました。
教育の先進国フィンランドでは、先を考える長い目の教育が根付いている。スオミのテキストにもこの考え方が影響している。
スオミ・ピアノ・スクールの特徴
①子供の心を大切にする
②自発性を養う←即興
③奏法 脱力の方法を導入時から学び、美しい音、多彩な音色を求めていく
④理論(形式) 様式(国・時代) 現代の作品にも抵抗なく取り組む
⑤外の世界に関心、興味を持たせる(文化・自然の違い)
⑥教材そのものが芸術性豊かな世界を作っている
スオミの特徴としてこの①から⑥までが挙げられ、この後の講座でそれぞれの巻で取り上げられたページや曲にこの特徴に該当する番号が付けられていて、とても分かりやすく改めて整理が出来たように感じました。
原著者の方針として4点が挙げられました。
・可能な限りの広い音楽的な素養を与える
・音楽に対する興味を目覚めさせ続けていく
・1つの巻でひと通り学び、グレードアップして次の巻へ螺旋階段を登るようにだんだん
レベルアップしていく
・イラストも重要な役目 字の読めない子も動物の目の表情で伝わるように工夫
この後、数ある教則本の中でもスオミならではという視点で各巻より曲を取り上げ、長年子どもの指導に携わって来られ、研究会の代表でもいらっしゃる浜本多都子先生にどのようにレッスンの現場で教えていくかを分かりやすく説明していただきながら講座が進められました。
うさぎの巻(音楽への旅立ち)、ねこの巻(1巻)の中からは、よく聴く耳を育てる、心を育てる、レガート、耳で踏むペダルについて、スオミならではの現代奏法であるフラジオレットや即興演奏について、多彩な音色を求めるいろいろなタッチについて、などのお話を頂きました。
そして、今回初めてさるの巻(2巻)をご紹介して頂く時間を多く設けることが出来、浜本先生の解説を交えながら久保先生に2巻の曲を沢山聴かせて頂くことが出来ました。
その中からいくつかをご紹介します。
・フィンランドの情景が浮かぶような素敵な曲 P.13~「カッコウの森で、朝」
・古い時代のチェンバロのタッチを意識して弾く曲 P.20~「メヌエット」
・12音音階で作られた現代曲体験が出来る本当に珍しい曲 P.27~「薄明かり、鳥、小品」
・いろいろなジャンルの曲が入っているという例 P.62~「ブルース(連弾)」
・現代音楽の記譜法が学べるユニークな曲 P.64~「犬の夢」
・フィンランドを代表する作曲家であるシベリウスの小品 P.82~「小さなワルツ」
何年か前にスオミのテキストの中の曲だけでコンサートをされたことがあるというお話がありましたが、スオミは子供のためのテキストでありながら、本当に芸術的で幅広いジャンルの素晴らしい曲が入っていると改めて感じました。
後半は、舘野先生にご登壇頂き、久保先生との和やかな対談となりました。
まだスオミが日本に紹介されていなかった今からちょうど40年前の1983年に、「ピアノとともに」というNHKの番組で、リラックスして弾くと良い、いろいろなジャンルの曲を弾きなさい、良く音を聴いてごらん、などと既に舘野先生はスオミの特徴となることをアドバイスされていらしたというお話を久保先生から頂きました。
ご自身が慶応高校2年生の時に、勉強とピアノとの両立に悩んでいた頃、指が良く動くようになるように厳しい練習を積まれていた。ピアノが苦しくつまらなく、音が汚く感じ、嫌になることがあったが、コハンスキー先生との出会いがあり、脱力の仕方(楽に弾くように)ということを習って目覚め、救われたような気持ちになり、それから弾くことが楽しくなった。ピアノを弾くということは、指が動くということに囚われ過ぎる。指、肘、腕が楽で、身体全体が楽になっていると波を打っているように弾けて、ずっと弾く範囲が広がる。
続いて久保先生から、舘野先生にかけて頂いた素敵なお言葉についてのお話がありました。
初めてレッスンをして頂いた時、緊張してコチコチになって曲を弾いた後に、「君の良いレパートリーになりそうだね」と言っていただいて、ふっと気持ちが自由になったと感じた。
デビューリサイタルの前日に緊張の余りどうして良いかわからなくなり、フィンランドにいらっしゃる舘野先生にお電話したとのこと、その時の舘野先生から「ステージに出る時は抱えきれないくらいの野の花を一杯積んで持って行くような気分で行くといいよ」というお言葉を頂き、力が抜けていくのを感じた。
舘野先生からかけて頂いたお言葉一言一言が、ステップになったとのこと、舘野先生は素晴らしいピアニストであると同時に素晴らしい教育者でいらっしゃるということをお話されていました。
日本で二人しかいない苦行僧のうちのお一人との最近ラジオ番組での対談の中で、今まで一番心に残る演奏会は?との質問があり、「今まで何千回もの演奏会を重ね、一回一回が一期一会、それを積み重ねてきただけ」とのお答えでしたが、演奏会そのものというより、ある四国の小さな島での出来事をお話されました。「演奏会は小さな島の小学校が会場、その前夜にリハーサルをしていた時に、小さな女の子と男の子の二人が入口の方でそっと見ていた。訊くとピアノを聴くのが初めてだということがわかり、ピアノの近くに来て聴きなさいと招き入れたところ、とても興味を持ってじっと聴いていてくれた」とのこと、その後、その子達とは何年か文通が続いたそうです。何とも先生のお人柄がうかがえる人間味あふれるエピソードに感動するとともに、どんな人の心も掴んでしまう先生の演奏の極意を垣間見させて頂いたように思いました。
最後に舘野先生に素敵な演奏をして頂きました。
・ノルドグレン作曲 小泉八雲の「怪談」によるバラードⅡ op.127 1振袖火事
・光永浩一郎作曲 サムライ
「振袖火事」では演奏後に解説を交えながら、再び曲を演奏して下さいました。先生の迫力ある演奏と多彩な音色の変化に会場は感動に包まれました。現代曲の素敵な音色が、先程の講座の中で久保先生がスオミの2巻より紹介して下さった曲の響きの正に延長線上にあるということが感じられ感動し、スオミのテキストの素晴らしさもまた再確認しました。
来年は日本でのファンクラブ第一号である舘野先生のファンクラブが50周年を迎えるとのこと、米寿を迎えられる舘野先生の演奏を楽しみにまた聴かせて頂きたいと思います。
沢山の心温まるエピソードを伺ったり素敵な演奏を聴かせて頂いたりと、本当に贅沢な良い時間を過ごさせて頂きました。
セミナー終了後は、青山の「星のなる木」に場所を移して、先生方を囲んで和やかなお食事会となりました。
Rep:ピティナちば若葉ステーション 神谷由美