ピティナ・ピアノセミナー

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金子 勝子先生セミナー(東音オンライン、実地・2021/04/16開催)

パーフェクトセミナープラス2021 第2回 スーパーテクニック!「ピアノ筋に効く指セット」plusハノン ~安定した指の支えを~ 
講師:金子勝子先生

4月16日 東音ホール
文・山本美芽(音楽ライター/ピアノ教本研究家)

金子勝子先生の門下からは牛田智大、角野隼斗、大崎結真、根津理恵子といった数々のピアニストが出ています。このたび出版された「指セット plus ハノン」(東音企画)は、金子先生のレッスンの奥義ともいえる練習ルーティンを楽譜にしたもの。セミナーでは、まず金子先生が60年にもわたる指導者人生を振り返り、続いて「指セット」の使い方を演奏しながら解説。そして中学生の生徒さんにバトンタッチして、実際に日々の練習のとおりに実演。さらに最後のハノン60番を、金子先生の門下生にして話題のピアニスト角野隼斗さんが演奏するという内容でした。

 大学を卒業して指導者になったばかりの頃、現在とは比較にならないほど情報がないなか、金子先生は息子さんの子育てをしながらレッスンをしていたそうです。仕事を終えて帰宅したご主人がレッスンの終了を待つ間、好きなおつまみを用意していたエピソードなども。まだピアノが日本に入ってきてから50年から60年、しかも戦争を挟んで、やっとピアノレッスンが落ち着いてできるようになった時代。女性が仕事をすることも当たり前ではなかったころ。その時期に知恵と工夫で乗り切ってきた様子が伝わります。さらには故・福田靖子理事との出会い、コンクール課題曲の説明会講師といったピティナの活動を経て、門下生を国際コンクールに送り出す指導者になっていく、サクセスストーリー。金子先生は「私には失うものもなかったから、たくさん恥をかきながら勉強してきました」と明るく語ります。

   今でこそ何でもシェアするオープンな姿勢は一般的になっていますが、当時として金子先生の「恥をかく」スタイルはかなり時代を先取りしていたのではないかと感じました。そして、国際コンクールを聴いて日本人の問題点を考え、対策としての指導方法を考案する。芸術的な創意工夫の精神が伝わってきます。

 指セットについての講義では、説明をしながら金子先生が課題を順に演奏。課題が作られた「ねらい」、タッチの具体的なバランスや音の長さ、響き、弾くときの呼吸のようなものもよくわかります。さらに中学生の生徒さんにバトンタッチして、生徒さんが最初からほとんどすべての課題を説明しながら弾いて聞かせてくださいました。レッスンで毎回20分ほど時間をとって必ず指セットを弾いているそうです。レッスンのひとこまをそのまま見られたような気がしました。

 テキスト最後にあるハノン60番は、バトンタッチして登場の角野隼斗さんが演奏しました。この重音の練習曲はエクササイズ的なものではなく、楽曲として美しく構成されていたことに驚きます。楽譜は誰もが持っているハノンですが、ピアニストによる60番の演奏というのは貴重なものでした。そしてサプライズで演奏された「子犬のワルツ」の耳に心地よいタッチ。多くの聴衆を魅了する角野さんのこの音は、子どもの頃から指セットを繰り返しながら作り上げた、まさにアートでした。

 「テクニックのことで苦労したことがなかったのは、金子先生が基礎をつくってくれたおかげ」と話しながら、軽やかに美しく60番を弾く角野さん、それを見守る金子先生、楽譜を開きながら耳を傾ける受講者の先生方の熱気。伝統を受け継ぎ、進化、発展するピアノレッスンの未来も見えたような、充実した2時間でした。


 テキストについているQRコードでも今井理子さん、角野隼斗さんのお手本演奏、もちろん角野さんのハノン60番も含めて、聴くことができます。

 
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