ピティナ・ピアノセミナー

ピアニストに学ぶ 「納得!演奏動画を撮る為のヒント」

● セミナーレポート
ピアニストに学ぶ 「納得!演奏動画を撮る為のヒント」

Rep:ピティナWキャリア職員 土屋駿也

チラシ

2020年5月31日、金子彩子先生(PTNA湘南藤沢ステーション代表)の主宰、講師に菅原望先生、鯛中卓也先生を招き、「納得!演奏動画を撮る為のヒント」と題したZoomによるオンラインセミナーが開催されました。
本セミナーの参加者総数は、なんと70名超え。
ピアノ指導者は勿論のこと、ピアノ学習者である生徒さんの姿も多く見受けられました。 100分に及んだセミナーでは、演奏動画を撮影する上での心構えやポイントが、質疑応答を交え、2人の講師より具体的に示され 充実した時間となりました。

※本レポートは当日のセミナーの内容をもとに一部加筆・修正しています。

♪ 本セミナー主宰 金子彩子先生の冒頭メッセージ

3月下旬の外出自粛要請に伴い、レッスンをオンラインに切り替えられた先生方、生徒さんが多くいらっしゃると思います。オンラインレッスンにも様々な方法があり、いろいろと試してみた結果、私は「録画のやり取り」という形に落ち着きました。
生徒が送って来た演奏動画に対して、楽譜上で添削をして、更にこちらからお手本の動画を送り返すわけですが、このやり取りの中で演奏を「録音・録画」で聴く機会が一気に増えて、自分が生徒に送るものも含めて、「演奏を録画する」ことについて考えました。
機器類の工夫もありますが、それ以上に内容を伝えることの難しさにも直面しました。なかなか思っているようには聴こえないという実感です。
そこで、演奏は勿論のこと、お人柄も信頼して尊敬しておりますピアニストの菅原望さん、鯛中卓也さんにご相談しまして、本日のセミナーとなりました。
ピティナの新しい企画「課題曲チャレンジ」も、参加者は動画で演奏を提出するわけですが、練習して、演奏を磨いて、更に自分で納得出来る「動画」にする為には?国際コンクールの予備審査等も含めて、これからますます、そういう機会が増えていくと思います。

金子彩子


動画撮影に挑む前に基本を再確認(鯛中先生)

音楽に取り組むにあたって、最も大切なのは、作品への想いとともに、理解があることです。
作品の成り立ちについて、自分なりに言葉にできると、音楽とより深いところで通じ合えますし、その先の学びへと繋げていくためにも、意味のあることだと思います。
そうした上でイメージをふくらませ、ピアノでどうやって音にするか、という取り組みを一歩ずつ実らせていけたら何よりです。
又、良い演奏とは何か?という問いに、3つの基準を示してみます。

「作品の性格描写」
「構成感」
「音の美しさ・色彩感」

音楽についてじっくりと考えを巡らせる時間を大切に、個性を育み、自発的な音楽が芽生えることを願っています。

質疑応答
本番で緊張してしまう時に、何を信じて臨めばいいでしょうか。(Sさん(高校1年生))

緊張している自分を受け入れた上で、音楽をどのように表現するかを考えることに意識を向けてみて下さい。

日々の音楽的な練習の積み重ねが、本番の演奏に反映されます。例えば、テンポを落としてゆっくり弾いても、間伸びせず音楽的に弾けるようにする練習を心掛けてみてはどうでしょう。


動画撮影の流れ(菅原先生)

最初のうちは、1発で納得のいく動画を撮影できず何度も撮り直すことがあるでしょう。しかし、間髪入れずに何度も続けて撮影すると、疲れてミスが増えたりテンポが乱れてしまいます。
動画を撮影することで、自分の演奏を俯瞰して聴くことができる絶好の機会なので、多少のミスがあろうとも最後まで演奏しましょう。そして、撮影した演奏を楽譜を見ながら聴き直して下さい。さらにもう一度、今度は自分の姿を見ながら聴き直して下さい。
動画を撮影して自分の演奏を反省する日と、撮影だけに集中する日を分けるとよいでしょう。

質疑応答
生徒達が「ミスのない演奏をする」ことが目標になっています。また、撮影の合間のリフレッシュの仕方を教えてください。(M先生)

もちろん、ミスは無いに越したことはありませんが、表現が魅力的ならばさほどミスは気になりません。
立て続けに撮影すると、ピアノに近づき過ぎたり姿勢が悪くなります。姿勢を整え直してみることを意識してみてください。

「おうちだから何度も録音できる」という気の緩みも、ミスが生じる1つの原因かと思います。「何時までに終わらせる」等、撮影のタイムリミットを設けるなどメリハリをつけることで、集中力をもって臨めるのではないでしょうか。何より1回目の演奏が肝心です。
私は、合間に少し歩くなど軽く身体を動かしてリフレッシュしています。

生徒が自分の演奏を俯瞰するにはどうすれば良いでしょうか。( S先生)

楽譜をめくるという行為だけで構成が分かりにくくなることもあるので、楽譜を横一面に張り出すとわかりやすくなります。

まずは、構成がシンプルかつ明瞭な曲を与えて、その曲がどの様に出来ているか、考える機会を作ってみてはいかがでしょう。ソナチネや短いソナタといった古典が基本となるでしょうが、音楽が変化していくさまに目を向ける、という点において、例えば、シューマンのユーゲントアルバムは、素晴らしい学びになると思います。さらに、マーカー等でテーマやモティーフに色をつけてあげると、より分かりやすく具現化できます。


録音時に気を付けること(菅原先生・鯛中先生)
①左右の手のバランス
菅原先生

ピアノの高音域は、いつもよりしっかりめに弾かないと綺麗に撮れないので、気を付けてください。

②クレッシェンドの仕方
鯛中先生

クレッシェンドの指示を見てすぐに大きくなってしまうと、すぐに音が飽和してクレッシェンドが伝わりにくくなってしまいます。(赤線)
クレッシェンドの後半に盛り上がりの余白があるように、又、メロディに対して伴奏のクレッシェンドは控え目に。(青線)

鯛中先生直筆の図(実線:メロディ、点線:伴奏)
③スマホやタブレットのみで撮影する時の注意
菅原先生

スマホやタブレットの内臓マイクは大きな音を収音できる限界値が低いので、小さな音の表現にこだわりを持って表情豊かにすることで、演奏の印象が良くなります。

④ペダルの使用について
菅原先生

ペダルを多めに踏むと音が大きく録音されてしまうので、ペダルを深く踏み過ぎないよう注意しましょう。

⑤音の取り方(切り方)
菅原先生

何も考えずに鍵盤から手を上げると、プツっという非音楽的な音で録音されてしまいます。音の余韻を味わうつもりで、音の取り方や手の上げ方を考えましょう。

⑥レガートをいつも以上に意識!
菅原先生

ピアノは鍵盤を押せば音が出るという特性から、「音を出す瞬間」に意識は向いても「音を出した後や音と音を間」にまで意識が向かないことがあります。いつも以上に「音と音を紡いでいく」という意識を持たないと、凸凹な演奏に聞こえてしまいます。

⑦「間」の表現
鯛中先生

審査員としてコンペを聴いている時も、場面の転換が上手くいっていない演奏を耳にすることがあります。音が無い瞬間をよく感じ、静けさにも耳を澄ませて演奏してください。

質疑応答
家での撮影だと緊張感を持って演奏してくれない生徒がいます。(O先生)

目をつむって舞台上にいるイメージを持つように伝えてみて下さい。または、その生徒さんにとって怖い人や厳しい人(親御さん等)に、生徒さんの近くにいてもらってはどうでしょうか。

一回きりしかないというつもりで挑戦されるのはいかがでしょうか。または、譜面台を取り外したり、ピアノの蓋を開けたりなど、環境を変えることで気持ちの切り替えができるのではないでしょうか。


課題曲チャレンジにおける評価のポイント(菅原先生・鯛中先生)
鯛中先生

ミスタッチの有無よりも、いかに音楽が魅力的かどうかに注目しています。
基礎に欠けていたり、練習不足によるミスタッチと、勢いあまって等、たまたま違う音を弾いてしまうことの違いはわかりますので。
それより、演奏会のように皆さんの演奏を楽しませて頂きたいです。

菅原先生

使用する楽器がグランドピアノなのかアップライトなのか等の違いにより審査に影響させるつもりはありません。競争ではないので、設備が整っていないからといって、引け目を感じる必要はまったくありません。

質疑応答
G級や特級等の上級コンクールを受ける際の撮影環境はどうすれば良いでしょうか?(K先生)

国際コンクールの予備審査では、画質や音質も重要視されています。第一印象で「この人の演奏を聴きたい」と審査員が思ってくれます。画質や音質が悪いと、それだけで聴きたくなくなる気持ちも分かります。良い環境と機材で撮影をするに越したことはありません。

楽器の状態をはじめ、音質と響きの空間には出来る範囲でこだわりたいところです。
ですが、何はともあれ、演奏あってのこと。
限られた条件のもとでも、ホールで聴衆を前に弾くことを想定して収録に臨めると良いでしょう。


受講者からのご感想(抜粋)
  • 少し機械の方に走っていた自分がいたので、音楽の原点に戻ること、ハッとさせられました。(M先生)
  • 先生方の豊富な経験に基づく説得力のあるお話、音楽への愛が溢れるお話に感動し、あっという間の幸せな時間でした。(T先生)
  • 動画撮影に留まらず、演奏や音楽に対する心のあり方など、原点に立ち返って見つめ直す機会となりました。(K先生)
  • 菅原先生、鯛中先生のお話、本当にまさに‘’音楽‘’を言い尽くされていると感服致しました。大切な良いお話でした。(S先生)
  • 素晴らしい内容と共に、鯛中先生、菅原先生のフランクで誠実なお人柄、音楽への深い愛と理想など、様々なことが、心に染みるセミナーでした。(M先生)
  • コンクールなど本番が近づいても何気なく弾いているだけになりがちでした。あらためて、見直す機会をいただきました。(保護者)
  • 本当にまだまだ先生方のお話しを伺いたいと思う充実した内容でした。数々の印象的なフレーズを頂き、自分自身にとっても、またレッスンのヒントを得ることもできて大変有意義な時間でした。(S先生)

結び

新型コロナウイルスの影響で様々な事がオンライン化した中、「動画撮影時に心がけること」にフォーカスした本セミナーの価値は非常に高いものであると感じました。
私も新型コロナウイルス渦中にYouTubeを活用し始めました。動画撮影の準備の際、機材に関する情報は比較的集まりやすく、交流会や説明会でも機材に関する意見交換が数多く繰り広げられました。
しかし、私は機材のことばかり考えてしまい、演奏動画を撮影する上での心構えやポイントにまで考えが至らなかったので、慣れない動画撮影に疲れ悩みました。本セミナーは、私と同じような経験をもつ先生には救いとなる内容だったと思います。

また、大勢の参加者の中で勇気を持って発言して下さった高校1年生の女の子の姿を見て、若い世代の方々にもっと気軽にセミナーを受けて欲しいと強く感じました。一人の先生に習った事だけを自宅で練習するという狭い世界ではなく、セミナーを受講して多くの出会いと視野を広げて欲しいからです。 講師の菅原望先生と鯛中卓也先生。そして、本セミナーを主宰していただいた金子彩子先生をはじめとするPTNA湘南藤沢ステーションの皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。
今回のセミナーで教えて頂いたことを生かして、私もYouTubeの撮影に挑戦していきたいと思います。

私土屋のYouTubeチャンネルはこちら

講師の菅原望先生、鯛中卓也先生と、金子彩子先生をはじめとするPTNA湘南藤沢ステーションの皆様との記念撮影。
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