田崎悦子先生セミナー(表参道 2019/04/12)
2019年4月12日(金)にカワイ表参道コンサートサロンパウゼにて、国際的なピアニストであり長らくピアノの指導にも携わってこられました田崎 悦子先生をお招きし、「ピアニスト 田崎悦子 の 大人のための ピアノ・ワークショップ Joy of Music40+Vol.13 第1回 -人前で演奏することをふまえた40才以上の方への公開レッスン-」を開催いたしました。
このワークショップはピアノを生涯の楽しみにしたいという大人の方々のための公開レッスンで、今回で既に13回目という人気のプログラムでもあります。受講される方々はもちろんのこと、聴講している方々にとっても、田崎先生のピアノとの向き合い方や音楽的センスに触れることの出来る、貴重な機会です。
本日最初に受講されたのは音楽大学卒業後の長いブランクを経て、再びピアノに親しむ時間を作るようになったという横尾尚子さん。曲目はショパンの《スケルツォ》第4番でした。技術的に難しいところがあると、なかなかスケルッツォ特有の快活なテンポで進めないという横尾さんに対し、田崎先生はもっと曲に対するイメージや理想像を持つこと、またそのために楽曲の大きな構成を捉え、その中で各々のメロディーや和音に意味付けをしてゆくことを伝えていらっしゃいました。また楽曲の細かい部分についても右手・左手のパーツに分けて練習することや和音の重なりの中に含まれるメロディーをよく聞き取ることなどを指導されました。その効果があって、レッスンの終わりごろには横尾さんの目指すスケルッツォのイメージがこちらにも伝わってくるようになりました。
二番目に受講されたのは、長らくボランティア演奏や大人向けのピアノ・コンクールの機会を利用して、ピアノの演奏を続けてこられました岸川薫さん。本日はヤナーチェク《霧の中で》の第1曲とリスト《ペトラルカのソネット》第123番での受講でしたが、レッスン内容は主にリストについてでした。この《ペトラルカのソネット》はリストの楽曲の中では華々しい技巧よりも繊細な音楽が目立つ作品で、聴き手に感動的に伝えるのがなかなか難しい作品です。ここで先生が仰ったのは「ソネット」というタイトルにちなんで歌と伴奏のイメージを持つことでした。確かにピアノの音色だけでこの作品を考えようとすると難解な部分がありますが、これを旋律的なところは人の声による歌だと考えると、どこで呼吸すれば自然であるとか、ここはコロラトゥーラのように演奏すると美しいなどといった、具体的なイメージが次々と湧いてゆきます。さらに先生が楽曲の強弱をもっと計算して創るように指導されると、岸川さんの演奏は一段とめりはりのあるものとなりました。
最後に受講されたのは足立徳子さんで、モーツァルトのイ短調ソナタでの受講でした。モーツァルトは前の受講生の方々が演奏されたロマン主義時代の作品に比べると、テンポを引き延ばしたり戻したりなどは少ない音楽様式ですが、先生は自分で「どの音を気を付けて弾くか」を考えておくことによって、自然なテンポの揺らぎが出ることを指導されました。そして先生が非常に強調されたのが、楽曲中の曲想指示・テンポ指示をもっと音楽創りに生かすということでした。例えば第1楽章には「maestoso」の指示がありますが、速度表示にこの表記が加わることで、拍感の出し方等は大きく変わります。先生の指導を経て和音の変化や倚音への意識が鋭敏になった足立さんの演奏は、受講前とはかなり違ったものとなりました。
実はこのプログラムは二週間後もう一度田崎先生のレッスンが受けられるというのが醍醐味となっています。今日演奏された3名の方の音楽がどのように変わっているのか、二週間先のレッスンが楽しみな公開レッスンでした。
Rep:A.T.