ピティナ・ピアノセミナー

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徹底研究2011

※終了しました

2011年度のピティナ・徹底研究シリーズは、生誕200年を迎える「F.リスト」を取り上げます。ピアノの魔術師といわれる「技巧」、旅人としての「生涯」、膨大な数を誇る「編曲」---。リストを特徴づける3つのアプローチから、リスト研究の第一人者である野本由紀夫先生が徹底解説いたします。

日時 2011年9月24日(土) 開演10:00
会場 洗足学園音楽大学 講堂(溝の口駅)
チケット 全席自由
通し券:10,000 円(一般)/8,000 円(ピティナ会員/学生)
各部券:3,500 円(一般)/3,000 円(ピティナ会員/学生)
講師:野本由紀夫先生
東京芸術大学大学院を修了(音楽学)。ドイツ学術交流会(DAAD)奨学金によりハンブルク大学(博士課程)に留学。指揮法を村方千之、佐藤功太郎他、管弦楽法を黛敏郎、音楽学を角倉一朗、W・デームリンク他の各氏に師事。桐朋学園大学助教授を経て、現在、玉川大学芸術学部教授。玉川大学管弦楽団の指揮者として、サントリー第九の指導にも当たっている。これまで、日本女子大学、昭和音楽大学他の各講師、NHK-FM解説者、<東京の夏>音楽祭企画委員、東京文化会館や東京芸術劇場、さいたま芸術劇場、横浜みなとみらい他のレクチャー講師を歴任。著訳書に『大作曲家・リスト』、『ニューグローブ世界大音楽事典』『音楽中辞典』『ポケット音楽辞典』の「リスト」の項、『メッツラー音楽大事典』の総合監修、『転換期の音楽:新世紀の音楽学フォーラム』『ベートーヴェン事典』『エミリ・ブロンテ論』『アン・ブロンテ論』『はじめてのオーケストラ・スコア』など数冊。原点版校訂に『リスト:演奏会用練習曲集』(全音)がある。2台ピアノの指導者・編曲者としても知られ、「ノモト・メソード」により門下生たちが国内・国際コンクールで優勝や入賞を果たしている。
特別出演
泊 真美子
第1部・第2部
プロフィール 大阪府豊中市出身。東京藝術大学音楽学部 ピアノ科 卒業。国内外全国各地をコンサートピアニストとして活動し研鑽を積んでいる。2003年 第72回日本音楽コンクール 第1位。併せて、聴衆賞、井口賞、河合賞、野村賞を受賞、1992年 第46回全日本学生音楽コンクール大阪大会小学校の部 第1位、1995年 第49回全日本学生音楽コンクール大阪大会中学校の部 第1位、1997年 第21回PTNAピアノコンペティションG級 全国大会第1位、2001年 第25回PTNAピアノコンペティション特級 全国大会第2位、1991年 第7回日本ピアノ教育連盟ピアノオーディション全国大会 A部門入賞。入賞者記念演奏会に出演、1995年 第11回日本ピアノ教育連盟ピアノオーディション全国大会 B部門入賞。入賞者記念演奏会に出演、2000年 第15回摂津音楽祭L・C リトルカメリアコンクール 第1位、2000年 第1回日中友好学生音楽コンクール大学生の部 第1位 及び総合の部 第1位、2001年 第36回フランツ・リスト・ピアノ・コンクール セミファイナリスト、2003年 第9回レ・スプレンデル音楽コンクール 第1位、2003年 第8回JILA音楽コンクール 第1位、2003年 第6回長江杯国際音楽コンクール 第1位、2003年 第1回東京音楽コンクール 第3位、2004年 第2回仙台国際コンクール セミファイナリスト、その他、数々のコンクールで優勝。、併せて、東京都知事賞、大阪府知事賞、上海市長賞、審査員特別賞、聴衆審査賞等、その他 多くの副賞を受賞。札幌交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、大阪センチュリー交響楽団、セントラル愛知交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、大阪シンフォニカー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団等との共演や、海外では、 ドイツ、ハンガリー、ポーランド、ウィーン、上海音楽院、北京大学百周年記念講堂(日本人初ピアニスト)、台湾 等で演奏、NHK-教育テレビ、NHK-FM等にも出演している。これまでに 梅本俊和、播本枝未子、岡田敦子、野島 稔、土田英介の各氏に師事。ナミレコードよりCD「泊 真美子ピアノ・リサイタル~ショパンと邦人作品の調べ~」(レコード芸術推薦盤)(読売新聞推薦盤)、CD「泊 真美子 二大ピアノソナタを弾く フランツ・リストと土田英介の世界」(レコード芸術特選盤)(毎日新聞推薦盤)、CD「ベートーヴェン ピアノソナタ ~熱情、悲愴、ワルトシュタイン」(レコード芸術準推薦盤)が全国発売中。演奏活動と共に、音楽家や受験生など様々な後進の指導にも携わっている。近年は、独自の音楽観や人生観を取り入れたファミリー向けの企画にも力を注ぐ。ホームページ:http://mamikotone.exblog.jp/
山辺 絵理
第3部・特別企画・ピアノ
プロフィール 14歳で東京にてリサイタルを開催、古典からロマン、近現代と幅広いレパートリーで確実なテクニックと柔軟な音楽性で表現し大成功を収めた。国内はもとより、海外では13歳でアメリカでの演奏会を皮切りにイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、ポーランド、ハンガリー、スペイン、チェコ、オランダ、アラブ首長国連邦にてソロ演奏会及び協奏曲の演奏会に出演。ポーランド国立放送交響楽団、同国立ポメラニアン交響楽団、同国立クラクフ室内管弦楽団、チェコのヤナーチェク・フィルハーモニー管弦楽団他オーケストラとの共演も数多く、その多彩な極めて美しい音色の、感性溢れる演奏は聴衆を魅了して止まない。国際コンクールでは、17歳でポーランドにて「第3回若い音楽家の為のアルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール」で最年少入賞後「第1回ショパン国際ピアノコンクールinASIA」にて第1位。スイスにて「第56回ジュネーブ国際音楽コンクール」で最年少ディプロマ賞受賞。「イタリア文化庁主催第10回パウシリポン国際ピアノコンクール」にて第2位、「第7回パレルモ・ウンダマリス国際ピアノコンクール」で第3位入賞など受賞歴も数多い。2001年よりロンドンに留学。「財団法人ヤマハ音楽振興会」及び「財団法人明治安田生命クオリティオブライフ文化財団」及びイオングループ「財団法人岡田文化財団」より海外音楽研修生奨学金を授与される。東京とロンドンの往復で二つの音楽大学に在籍。東京音楽大学「ピアノ演奏家コース」と英国王立音楽大学大学院「アーティストディプロマコース」を共に特待生奨学金を授与され首席で卒業。英国王立音楽大学より「ジョンホプキンソン特別メダル」を授与される。2010年2月、ロンドンのセント・バーナバス教会で開催された「ショパン生誕200年記念フェスティバル全曲演奏会」に出演した際、急病で欠場した共演の男性ピアニストの演奏曲目も、急遽引き受け完璧な演奏を披露、聴衆をはじめ音楽関係者の注目を浴び大絶賛された。この演奏会の模様は「BBCラジオ3」で放送され同会場で翌月開催された、オールショパンのソロリサイタルは、フェスティバルの演奏を気に入って駆けつけた聴衆を魅了し、大成功を収めた。同年3月、共同通信社特約、邦人向週刊情報誌「Update Weekly Japan」に、見開き2ページにわたり巻頭インタビュー記事が掲載され、一躍話題の人となった。本年10月にロンドンで開催される「リスト生誕200年記念フェスティバル全曲演奏会」及びソロリサイタルに出演予定。これまでに田沢恵巳子、杉谷昭子、ハリーナ・チェルニー・ステファンスカ、吉川元子、下田幸二、高橋多佳子、野島稔、菊地麗子、ケヴィン・ケナー各氏に師事。現在、東京音楽大学付属音楽教室助手。社団法人全日本ピアノ指導者協会演奏会員。ホームページ:http://www.tanahara.net/eri/
小林 朋子
第1部・ヴァイオリン
プロフィール 5歳より桐朋学園子供のための音楽教室に入室。6歳よりヴァイオリンを始める。桐朋学園女子高等学校音楽科を経て2004年同大学音楽学部卒業。その後ベルリン芸術大学へ留学。2006年にディプロムを取得。2010年2月同大学院卒業。ドイツ国家演奏家資格取得。第47回全日本学生音楽コンクール小学生の部全国大会第1位、第1回東京音楽コンクール弦楽部門第2位、マックス・ロスタルヴァイオリンコンクール第3位、イボリカ・ギャルファス ヴァイオリンコンクール第1位など、国内外のコンクールに入賞。これまでに東京交響楽団、新日本フィルハーモニー、読売日本交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団と共演。室内楽やオーケストラの勉強にも力を入れ、サイトウキネン若い人のための勉強会、小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト、東京のオペラの森などに参加。2004年にはアメリカのハイランド・キャッシャーズ室内楽フェスティバルに招かれる。2008年にはベルリンフィルハーモニーのホールで行われたランチコンサートにデュオのパートナーであるピアニストの今井彩子と共に出演。2007年よりダニエル・バレンボイムが音楽監督を務めるベルリン国立歌劇場のオーケストラアカデミーで研鑽を積む。2010年3月より拠点を日本に移す。演奏活動をする傍ら、桐朋学園子供のための音楽教室で後進の指導に当たっている。2004年度ドイツ学術交流会(DAAD)給費奨学生、2007年度文化庁新進芸術家海外留学制度研修員。これまでにヴァイオリンを飯田芳江、原田幸一郎、ノーラ・ヒャステインの各氏に師事。
大澤一彰
特別企画・テノール
プロフィール 東京藝術大学卒業、ローマにて研鑽を積む。疋田生次郎、U.ボルソ各氏に師事。團伊玖磨指揮による日生劇場「夕鶴」与ひょう役でオペラデビュー。第1回ルーマニア国際音楽コンクール声楽部門第1位、併せて全部門よりグランプリ受賞。ブカレストでコンサートを行い好評を博す。2008年、第44回日伊声楽コンコルソ第1位、及び藤原義江賞等に輝く。サントリーホールで行われた入賞者披露コンサートでは「清教徒」「連隊の娘」のアリアにてハイC#・ハイCを連発し、聴衆を沸かせた。びわ湖ホールでは「ミニヨン」(指揮;佐藤功太郎・大島義彰演出;岩田達宗)ヴィルヘルム役において青春の彷徨を熱演、持ち前の美声と気品をたたえた表現は各方面で高い評価を得る。また愛知芸術劇場では、愛知文化振興事業団主催「ラ・ボエーム」(指揮;小崎雅弘演出;粟國淳)ロドルフォ役市原多朗のカヴァー、続いて「ファルスタッフ」(指揮;山下一史演出;岩田達宗)にて佐藤美枝子演ずるナンネッタの恋人・フェントン役を、いずれも激戦のオーデションの中で勝ち取り、新聞にて『耳を奪う美声』と絶賛される。また、同劇場の音楽への扉シリーズ「オペラは美しく、劇的に」及び「藝大退官記念コンサート」にて林康子氏と共演し、いずれも好評を博す。その他、文化庁芸術支援人材育成オペラ「ジャンニ・スキッキ」(指揮;菊池彦典演出;岩田達宗)リヌッチオ役、林康子プロデュース「蝶々夫人」(指揮;菊池彦典演出;井原広樹)ピンカートン役、「ルチア」エドガルド役、「ナブッコ」(指揮;M.ティトット)イズマエーレ役、「外套」ルイージ役、「カルメン」ドン・ホセ役等。また新作解釈にも優れた才能を見せ、熊本城築城400年記念オペラ「南風吹けば楠若葉」では、主役の横手五郎惟宗役を演じ、『豊かな美声を長いブレスで聴かせ、役作りも的確。大柄な身体が舞台栄えする』(音楽の友)と評される。清水の舞台で行われた「世界遺産音楽祭・京都」モーツァルト「レクイエム」に出演。その模様は全世界に向けTV放映された。2009年、天沼裕子指揮「カヴァレリアルスティカーナ」で、冷酷さと情熱を併せ持つトゥリッドゥを演じ、新境地を開いた。2010年、松尾葉子指揮「アイーダ」ラダメス役で聴衆を熱狂させたことは記憶に新しい。 日伊音楽協会会員。ニ期会会員。日本演奏連盟会員。
第1部(10:00~12:00)
「技巧=ピアニスト・リスト」

パガニーニからリストへ。リストの演奏技巧を解明していきます。

1.技巧の発展を比較する
  • 《12の練習曲》より 第10番
  • 《24の大練習曲集》より第10番
  • 《超絶技巧練習曲集》より第10番
  • ショパン《練習曲集》op.10より第9番 f-moll
2.技巧のルーツ~パガニーニと視覚効果
  • パガニーニ《24のカプリース》より第24番
  • 《パガニーニ大練習曲集》より第6番
  • 《超絶技巧練習曲集》より第12番
  • 《3つの演奏会用練習曲集》より 第3番《ため息》
  • 《超絶技巧練習曲集》より第4曲《マゼッパ》
第2部(13:00~15:00)
「生涯=作曲家リスト」

生涯を旅人として過ごしたリストの、その作曲法を解明していきます。

1.(ピアニスト→作曲家→聖職者)の生涯
  • 《ハンガリー狂詩曲集》より第12番(管弦楽曲編曲第2番)
2.標題音楽とリストの作曲法
  • 《巡礼の年 第1年「スイス」》より第6番《オーベルマンの谷》
  • 《ピアノ・ソナタ》ロ短調
  • 《巡礼の年 第2年「イタリア」》より第7番《ダンテを読んで》
3.20世紀音楽の先駆者リスト
  • 《巡礼の年 第3年》より第4番《エステ荘の噴水》
  • 《灰色の雲》
  • 《不吉な星》
  • 《悲しみのゴンドラ》第2番
◆ 第3部(15:30~17:30)
「編曲=ピアノ⇔オーケストラのバイリンガル」

プレイング・コンポーザーとしてのリストを、特殊な記譜法を通して解明していきます。

1.リストにとって編曲とは?
2.パラフレーズと編曲
  • 《リゴレット》演奏会用パラフレーズ
3.ピアノ⇔オーケストラのバイリンガル
  • 《メフィスト・ワルツ》第1番
  • 《2つの伝説》
★特別企画(17:30~18:00)
  • 《愛の夢》より第3番《おお、愛しうる限り愛せよ》~ピアノ独奏および歌曲原曲で
    テノール:大澤 一彰 ピアノ:山辺 絵理
使用テキスト

(野本由紀夫先生/全音楽譜出版社):「3つの夜想曲」「2つの伝説」「メフィスト・ワルツ」「演奏会用練習曲」「超絶技巧練習曲集」「ピアノ・ソナタ ロ短調」

  • 講演内容および曲目は、変更になる場合もございます。一部の曲目については、通し演奏も予定しております。

トピック
野本由紀夫先生インタビュー
ピアノを通して、F.リストの「全体像」を解明する

まず、今回全6時間におよぶ「F.リスト」の徹底研究の、聴きどころをお伺いします。

リストは生涯に 1,500曲ほど作っているのですが、ピアノを伴う作品は、そのうちの700曲ぐらいです。そのピアノ曲においても、限られた時期のごくごく一部の作品だけを聴いて、「リストの曲は・・・」と判断をされてしまっているところがあります。今回の講座では、ピアニストとしての側面と、作曲家としての側面の2つの側面を浮き彫りにしながら、リストとピアノの関係、そしてリストの全体像を、できるだけ解明していきたいと思います。

ピアニスト・リストの「超絶技巧への道」を探る
リストの直筆譜をもとに、作曲技法を解説いただきます。

リストといえば、ヴィルトゥオーゾ・ピアニストというイメージが、最初にありますね。

そこで第1部では、皆さんにもっとも関心があると思われる、「ピアニスト」リストの「技巧」をテーマにしました。リストにどのように取り組めばいいか、どのように練習すれば弾けるようになるのか、というような点に加え、そもそもリストは、どうやって技巧を見出していったのか、「超絶技巧への道」を解き明かしてみようと思います。

たとえば、15歳の時に作った「12の練習曲」(作品1)は、『超絶技巧練習曲集』の初稿にあたり、チェルニー40番レベルの曲もあることから、課題曲に出しているコンクールもけっこうあります。易しいのに、『超絶技巧練習曲集』とメロディが同じなので、リストの雰囲気を味わう入り口として、おすすめです。ここから、『超絶技巧練習曲集』(第3稿)に至るまで、どのようにして技巧を開発して、曲になっていったかを今回比較していきたいと思います。

リスト独自の技巧として、特に挙げられるのは何でしょうか?

リストのピアニズムの本質は、オクターブの重音の連続のような、オクターブ奏法です。ショパンが、テンポ・ルバートで歌うように演奏するカンタービレ奏法だとすると、リストは、オクターブで演奏する。つまり、指の技巧というよりは、腕の技巧に、一つ特徴があると思います。
さらに、リストは、指のタッチに関わる記号を、楽譜にものすごくたくさん書き込んでいます。スタッカートなのか、テヌートなのか、テヌート・スタッカートなのか、あえて何もついていないのかという、非常に細かく記譜分けしているので、指の形や、指の腹のタッチなのか指先なのかという奏法のお話も、この技巧編でお話しようと思っています。

第1部では、ヴァイオリンのデモストレーションも予定されていますね。

実は、リストのピアニスト・あるいは技巧のルーツは、ヴァイオリンにあるんです。ただやみ雲に難しいのではなく、本当はヴァイオリンのこういう演奏を求めていて、わざわざこう楽譜に書いているのだ、という意図があるのです。ピアニストのみなさんは、なかなかヴァイオリンのテクニック的なことまでご存じでないことが多いと思うので、そういう点も第1部の聴きどころになればと思います。

作曲家・リストの作風の変遷と与えた影響を探る

第2部は、リストの生涯を振り返りつつ、作曲家としてのリストにアプローチされるわけですね。

第1部で技巧について取り上げましたので、第2部では、曲をどう捉えたらいいのか、内容的な面と形式分析的な面の両方から取り組んでいきます。 リストの人生は、ざっくり言えば、「ピアニスト時代」、「作曲家時代(ワイマール時代)」、「聖職者時代(ローマ時代)」と大きく移り変わっていきます。作曲の仕方がどう変わっていくのか、違いを明らかにしていきたいと思います。
リストでまず重要なのは、『標題音楽の作曲家・リスト』です。「標題音楽」(=プログラム・ムジーク)という言葉を作ったのは、実はリストなんですね。19世紀の音楽史は、音だけで音の世界を構築して何も表現しないという考えからきた「絶対音楽」と、いや、音楽というのは感情とすごく結びついていて、何かを表現するんだという「標題音楽」、この2つの音楽思想が激しく対立していたのですが、その片方の側なわけです。どのような感情表現と結びついているのか、どんなメッセージを発しているのか、それを具体的に見ていきたいと思います。

そして、交響詩ともつながってくるわけですね。

その標題音楽を作っていた時代に、オーケストラ曲では、「交響詩」というジャンルを創始したのが、リストだったわけです。じつは、今回取り上げる『メフィスト・ワルツ』や『2つの伝説』は、ピアノによる交響詩なんですね。この交響詩の作曲技術を、『オーベルマンの谷』で見ていきたいと思います。交響詩のキーワードは、『主題変容』で、一番最初に出てきた主題が、曲の中でどのように発展していくのかが、非常に重要です。ですから、ピアノを弾く時にも、主題の姿が変わっていったことに注意を向けなければダメで、ただ指の練習と思って弾いてはいけません。曲の構成というものがちゃんとある、ということです。
交響詩は、メッセージを伝えるという機能から、民族的な題材にも、最適でした。例えば『モルダウ』を含む『わが祖国』、『フィンランディア』も交響詩なんですが、政治的独立より前に、まず音楽から独立しようと、民族独立を音楽で達成するという原動力になったのが交響詩なんですね。実際、音楽が一つの引き金となって、とうとう独立していくことになったわけですから、そういう意味では、リストは世界史にも影響を与えている人なのです。

2部の最後は、20世紀音楽の先駆者リスト。まさに、知られざるリスト、という感じですね。

一つは、フランス印象派の先取りをしています。最晩年にドビュッシーに会っているのですが、『エステ荘の噴水』を聴いたドビュッシーは、自分が印象派の最初だと思っていたら、リストがすでにやっていた、ということでショックを受けているぐらいなんです。
もう一つ、無調音楽の先取りです。シェーンベルクらの音楽を、30、40年先取りしているということなります。この音楽は、15歳のときのリストの曲よりも、演奏テクニック的にはずっと簡単で短い曲であり、ある意味、非常に不思議な曲でもあります。
最晩年の知られざるリストのもう一つは、「聖職者・リスト」で、カトリックの宗教音楽へ向かっていきます。『2つの伝説』は、完全に宗教作品ですね。

ロマン期の激動の時代の全てを網羅しているような生涯ですね。

ベートーヴェンも活躍していた頃に生まれ(1811年)、亡くなった1886年は、ストラヴィンスキーやマーラー、20世紀の作曲家たちも生きていた時代ですからね。楽器としてのピアノの完成なども含め、非常に広い方面に影響を与えています。リストを通じて、クラシック音楽のど真ん中の時代を見渡していただければと思います。

編曲者・リストから、ピアノとオーケストラの語法を探る

ところで、野本先生は、リスト研究家の第一人者でいらっしゃいますが、どういうきっかけでリストの研究をするようになったのですか。

きっかけは、リストが編曲したベートーヴェンの交響曲第5番『運命』ですね。グールドの演奏しているピアノ独奏版の『運命』を聴いたのが、リストとの最初の出会いだったと思います。LPに付いていたピアノ譜と、オーケストラのスコアと見比べてみて、「これは大変な、音楽史上まれに見る天才だぞ!」と高校生のときに気がついたんですね。他の有名なピアノ編曲家たちの編曲譜と見比べてみると、リストの編曲は、まるっきりレベルが違う。ピアノが上手いとか下手とかいうレベルではなくて、リストは、ピアノという楽器の語法もよく知っているし、オーケストラの語法もよく知っている、バイリンガルなんです。

第3部は、このような編曲を通じて、ピアノとオーケストラの「バイリンガル」であるリストを取り上げていただくということですね。

たとえばベートーヴェンの交響曲の場合、ピアノを知り尽くした大ピアニストだったリストが、作曲家に転身してオーケストラを知り尽くしたんですね。ピアノとオーケストラのバイリンガルというのは、リストのひとつの特徴だと思います。
リストはオーケストラのスコアに書かれた音域を、そのままピアノ譜に置き換えるということはなく、オーケストラの音色を、ピアノだったらどの音域の音になるか、よく考えられています。音を加えることもあるし、抜くこともいっぱいある。響きのことがよくわかっている、ということに驚かされます。音符の表面にとらわれるのではなく、「意味」にとらわれる、つまり、オーケストラからピアノへの「意訳」が、リストの本当のすごさですね。
ピアノを弾くときに、オーケストラのイメージがあった作曲家、ベートーヴェンやリストなどの曲は、オーケストラ版と見比らべたり、自分でスコアを弾いてみるというのは、すごく勉強になります。私はもともと、ずっと指揮を勉強していたので、スコア・リーディングしたり、オーケストラをピアノで弾いたりすることは普通のことなのですが、ピアノを演奏される方も、リストのピアノは、ピアノだけの発想で弾いてしまわない方がいいですね。

今回も、『メフィスト・ワルツ』や『2つの伝説』では、ピアノ版とオーケストラ版の両方を取り上げますが、実際にオーケストラのCDも聴いていただこうと思っています。リストがどれぐらいバイリンガルだったかというと、例えば『メフィスト・ワルツ』にしても、オーケストラとして書いたのをピアノにしたのか、ピアノの曲をオーケストラにしたのか、どちらが原曲かわからない。どっちもオリジナルに聴こえてしまうというところがすごいところです。

野本先生の解説を伺いながらの聴き比べ、たいへん楽しみです。最後の特別企画の編曲も興味深いです。

講座の教材として、野本先生ご自身が校訂された原典版楽譜シリーズ(全音刊)が充実。

講座の最後は、歌をピアノにしたもの、オーケストラをピアノにしたものも楽しんでいただこうと思います。
それと同時に、『愛の夢』にしても、やはり歌詞をきちんと知った上で演奏する必要があるとわかっていただくy機会になればと思います。つまり、今回リストをテーマにしていますけれども、リストだけではなくて、ロマン派の曲でもベートーヴェンの曲でもバッハの曲でも、いきなり指の練習で弾き始めてるのではダメで、それよりも前に、いかにやることがたくさんあるかを、お伝えできればと思います。

(2011年7月4日 東音ホールにて)

杉本安子先生よりコメント
今回の徹底研究の企画について

F.リストは1811年10月22日ハンガリー領ライディング(現オーストリア領のブルゲンラント州)で生まれ、2011年の今年はリスト生誕200年を迎えます。

昨年のショパン生誕200年には世界中で関連行事が盛り上がっていた様ですが、今年のリスト生誕に関しては残念ながらやや盛り上がりに欠けているようにも思われます。

その原因は定かではありませんが、一般的にはリストの音楽は技巧が大変華やかで聴き映えがするが、同年代の作曲家、ショパン、シューマンと比べてやや音楽の内容でうすいという誤解や偏見がある様に思われます。

しかし、リストは当時全ヨーロッパを舞台にヴィルトゥオーゾピアニストとしての活躍、作曲家、また教育家として大きな足跡を残しました。

作曲の分野ではピアノ曲、オーケストラの作品はもとより、宗教的合唱曲、独唱歌曲の分野にまで及び、"編曲"に至っては膨大な数の作品があります。そして晩年には、すでに20世紀の無調音楽を予見する様な作品もあり、後世の作曲家に多大な影響を与えました。

今回のピティナ徹底研究では、リスト研究第一人者の野本由紀夫先生をお迎えいたします。 先生のお話から一般的に今までの勉強不足からリストに対して抱いていたイメージが変わり、まだまだ隠れた名曲を沢山持ち、私達の知らない世界を持っている作曲家リスト。その偉大さを発見できますことを大変期待しております。

ピティナ演奏研究委員長 杉本 安子

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